2023年6月、朝日新聞社ヘリから撮影された東京電力柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市・刈羽村)。福島第一原発事故以降、全ての炉が停止しているasahi.comnewsdig.tbs.co.jp
政府の立場(首相・関係閣僚)
岸田文雄首相はエネルギー政策として原発の活用に前向きであり、柏崎刈羽原発の再稼働準備にも積極的に取り組んでいます。2024年8月27日、岸田首相は官邸でのGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で「残された任期の間にGXを一歩でも前進するため尽力する。その一つが原発の再稼働の準備だ」と述べ、地元の避難路整備や地域振興策を検討するため原子力関係閣僚会議を開催すると表明しましたasahi.com。首相は「東京電力への不安の声があることは正面から受け止める。再稼働を果たすには地元からの要望を事業者と政府が一体となり対応しなければならない」とも語り、具体策の検討を指示していますasahi.com。岸田政権は地元の理解を得るため、避難計画の強化や交付金による地域支援(地元同意を得た自治体には最大10億円の交付金支給など)を含む支援策にも言及していますasahi.com。
関係閣僚では、経済産業大臣が再稼働問題の中心的役割を担っています。西村康稔経産相(当時)は2022年5月、電力各社の電気料金値上げに際し「原発再稼働が進んでいる関西電力・九州電力は料金改定を行っていない」と述べ、原発再稼働の必要性を強調しましたfnn.jp。一方で西村経産相は2023年1月、東京電力が柏崎刈羽原発7号機の10月再稼働を前提に料金値上げ申請をした件について「現在、原子力規制委員会の追加検査中であり、再稼働時期を見通せる状況ではない」と述べていますnews.tv-asahi.co.jp。その後、西村氏は自身の政治資金問題により2023年末に辞任しましたが、辞任直前の会見で「エネルギー・電力の安定供給と価格安定の観点から原発再稼働が最も重要な課題の一つだったので、大変残念だ」と語り、柏崎刈羽原発も規制委の検査中であることに触れつつ再稼働に意欲を示していましたmeti.go.jp。
西村氏の後任となった齋藤健経産相も再稼働に積極姿勢を示しています。2024年3月18日、齋藤経産相は花角英世新潟県知事や桜井雅浩柏崎市長、品田宏夫刈羽村長に直接電話し、柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働への理解と同意を要請しましたnews.nsttv.comnews.nsttv.com。翌3月21日には資源エネルギー庁長官が新潟県を訪れ、知事に国の方針を直接説明していますnews.nsttv.com。齋藤経産相は「新規制基準に適合すると認められた原発は地元の理解を得ながら再稼働を進める」という政府方針を改めて伝えたと述べましたnews.nsttv.com。また能登半島地震で浮き彫りになった複合災害時の課題に触れ、「しっかりとした緊急時対応がない中で原発再稼働が進むことはない」と述べ、緊急時対応策の充実が前提との考えも示していますnews.nsttv.com。この要請に対し、桜井市長は「さらなる安全性向上と安心感の醸成に努めつつ、国は強い意志で再稼働施策を進めてほしい」と応じており、品田村長も同様に国の積極姿勢を歓迎していますnews.nsttv.com。一方、花角知事は齋藤経産相からの電話に「承りました。政府方針は一貫している。屋内退避や安全な避難の課題、県の技術委員会での安全対策確認の進捗を見極めて判断することになる」と慎重な応答をしていますnews.nsttv.com。
原子力規制委員会の姿勢
原子力規制委員会(規制委)は独立した規制機関として、安全確保と東京電力の適格性確認に厳格な姿勢を取ってきました。柏崎刈羽原発については、2017年12月に6・7号機が新規制基準適合の審査に合格しましたが、その後テロ対策上の深刻な不備が次々発覚しましたasahi.com。例えば2018~2020年にかけて、侵入探知設備の故障放置や社員のIDカード不正利用による中央制御室入室などの問題が判明し、規制委は2021年4月に核燃料の移動禁止(事実上の運転停止命令)という異例の措置を東京電力に科しましたasahi.com。以降、規制委は追加検査によって東電の改善状況を監視し、東京電力に対しセキュリティ体制や安全文化の抜本的強化を求めてきました。
規制委は2023年末までに延べ4,000時間以上の検査を実施し、同年12月6日に「課題は改善された」とする報告書案を公表、12月11日には山中伸介委員長らが柏崎刈羽現地調査を行い、12月20日には東電の小早川智明社長との面談を実施しましたasahi.com。そして12月27日、規制委は「東電のテロ対策体制は他の原発と同じ最低限の水準である『自律的改善が見込める状態』に達した」と判断し、2年8カ月続いていた事実上の運転禁止命令を正式に解除しましたasahi.com。同日付で規制委は、東電が原発運転事業者として「適格性」を有するとした2017年時点の判断を覆す理由はないことも再確認していますjcp.or.jp。
ただし、規制委は運転禁止解除後も東電の改善継続を厳重に監視する方針ですasahi.com。特に、追加検査の結果について山中委員長は「本当に自主的に対応できているのか疑問が残る」と指摘しておりfnn.jp、東電自身が主体的に安全文化を根付かせる取組みが今後も重要視されていますfnn.jp。規制委は追加検査を終了し通常の検査体制に移行しましたが、「1~2カ月で解決できるものではない。時期については東電の取り組み次第だ」と述べ、再稼働時期を明示することは避けていますfnn.jp。このように規制委は、安全性とセキュリティに万全を期す姿勢を崩さず、技術的な観点から政治的圧力に左右されず判断しているのが現状です。
与党の見解(自民党・公明党)
与党である自由民主党と公明党は、エネルギー安全保障や脱炭素の観点から原発再稼働を推進する立場です。自民党政権は福島第一原発事故後しばらく慎重姿勢を見せつつも、近年は再稼働加速に踏み切りました。岸田首相自身、「国が前面に立って原発再稼働に取り組む」方針を繰り返し示しておりfnn.jp、政府与党として柏崎刈羽を含む停止中原発の順次再稼働をエネルギー政策の柱に据えています。例えば政府は2022年、「2023年夏以降に柏崎刈羽6・7号機を含む7基の原発再稼働を目指す」との方針を表明しましたfnn.jp。また、老朽原発の運転延長や次世代革新炉の開発にも舵を切っており、後述のとおり2023年には関連法の改正を与党主導で成立させています。
公明党も連立与党として基本的に政府方針を支持しています。公明党の公式見解では、「安全が確認された原発の再稼働を容認するが、将来的な原発ゼロも目指す」というスタンスですfoejapan.org。公明党は新増設や長期依存には慎重姿勢を示す一方、当面の電力安定供給のためにはやむを得ない措置として再稼働に賛成しています。実際、2023年の原発関連法改正(GX脱炭素電源法)では自民党とともに賛成票を投じ、衆参両院で可決成立に寄与しましたasahi.com。公明党は地元合意や安全対策の徹底を条件に再稼働を進める考えであり、柏崎刈羽についても政府・党として新潟県や地元自治体への説明と説得を進めています。
なお、自民党の新潟県連も再稼働に向けた動きを支持しています。県連は2023年9月、原子力規制庁に対し柏崎刈羽原発の安全審査や東京電力の適格性確認を厳格に行うよう要望を出しましたnews.nsttv.com。これは安全を前提に再稼働議論を進めるためのもので、県内経済への効果も睨みつつ与党として再稼働容認の立場に立っています。総じて与党は、**「安全確保と地元理解に万全を期しつつ再稼働を進める」**との立場で一致しており、柏崎刈羽の再稼働実現に向け政府と足並みを揃えています。
野党の見解(主要野党の立場)
野党の間では原発政策に関し意見が分かれていますが、立憲民主党や日本共産党などは再稼働に反対、慎重な立場を取っています。立憲民主党は原発ゼロ社会の実現を長期目標に掲げており、新規制基準に適合していても**「経年劣化した原発を運転することは安全の後退である」**として再稼働や運転期間延長に反対していますnewsdig.tbs.co.jp。実際、2023年のGX脱炭素電源法案の審議でも立憲民主党は「老朽原発の延命は安全性を損なう」と主張し、党を挙げて反対票を投じましたnewsdig.tbs.co.jp。柏崎刈羽原発についても、福島事故の検証が不十分なまま再稼働を急ぐことに懸念を示しており、新潟県内の立憲系政治家は県民投票の実施など住民の意思反映を重視する姿勢です。
共産党は原発即時ゼロを主張し、一貫して全ての原発再稼働に反対しています。日本共産党は福島事故後、柏崎刈羽原発の廃炉を含めた脱原発政策を求めており、県民投票実施を含め再稼働阻止のための運動を支援していますasahi.com。共産党系の市民団体は新潟県に再稼働の是非を問う直接請求(住民投票条例案)を行い、約14万3千筆の署名を集めましたasahi.com。この条例案は2025年4月の県議会で否決されましたが(後述)、共産党は「住民の声を無視して国策を進めるべきではない」と批判しています。また共産党の国会議員は国会質疑で東電の安全適格性や避難計画の不備を度々追及しており、規制委の運転禁止命令解除についても安全軽視ではないかと懸念を表明しています。
一方、野党の中でも日本維新の会や国民民主党は原発再稼働に比較的賛成寄りの立場を取っています。日本維新の会は党是として「脱炭素と電力安定供給のため、安全が確認された原発の早期再稼働」を掲げており、2023年の関連法改正でも与党とともに賛成票を投じましたasahi.com。維新は規制審査の効率化や、万一の事故に備えた損害賠償制度の見直し(民間事業者の責任を有限化する制度)なども提案しておりfoejapan.org、国策として一定の原発活用を容認する立場です。国民民主党もエネルギー安全保障の観点から「原発の安全確保を前提に早期再稼働と次世代革新炉の開発」を主張していますfoejapan.org。このように、野党でも維新・国民などは再稼働賛成、一方で立憲・共産・社民・れいわ新選組などは脱原発を主張しており、原発政策は野党間でも意見が分裂しています。
新潟県の姿勢(知事と県の対応)
新潟県知事・花角英世氏は柏崎刈羽原発の再稼働について慎重な立場を維持しており、「安全・安心の確保」と「県民の理解」を最優先に判断する方針です。花角知事は2018年の初当選時から「福島原発事故の検証なくして再稼働議論なし」との前知事(米山隆一氏)の路線を引き継ぎ、県独自の「三つの検証」作業が終わるまでは結論を出さない姿勢を示してきました。三つの検証とは①福島事故の原因検証、②健康・生活への影響検証、③防災・避難計画の検証であり、県技術委員会等で専門的検討が進められていますnews.nsttv.com。花角知事は「再稼働の前提として避難計画の策定が必要」と強調しておりasahi.com、現時点で新潟県広域の住民避難体制が万全でないことから「県民の信を問う」姿勢を崩していませんasahi.com。
国からの地元同意要請に対する花角知事の対応も慎重です。2024年3月に経産相から再稼働同意を求められた際も、「屋内退避施設整備や安全な避難など県が求めている課題の進展を見極める」と述べ、明確な同意・不同意を示しませんでしたnews.nsttv.com。知事は「二者択一では多様な県民意見を把握できない」として住民投票には否定的ですが、代わりに公聴会やアンケート調査などで県民の受け止めを確認する意向を示していますasahi.com。実際、県は2023年から県内全市町村で説明会を開催したり、避難計画案に対するパブリックコメントを募るなど、丁寧に民意を把握するプロセスを進めています。また、2025年4月には前述の県民投票条例案が県議会で否決されましたが、その際知事は「県民の受け止めを見極める」と述べ、引き続き独自の手法で民意確認を行う考えを示しましたasahi.com。
新潟県議会の動きも注目されています。2025年4月18日、県議会は有権者から直接請求された「柏崎刈羽原発再稼働の是非を問う県民投票条例案」を反対多数で否決しましたasahi.com。与党系(自民・公明など)議員36人が反対、野党系16人が賛成という結果で、最大会派の自民党は知事の「住民投票不要」との意見を支持する討論を行いましたasahi.com。一方、野党会派は住民投票で民意を問う修正案を提案しましたが、これも否決されていますasahi.com。この経緯から、最終判断のハードルは知事の同意に一本化された格好で、県民投票という直接民主手段は採用されない見通しです。ただ知事は「判断前に県民の受け止めを見極める」としておりasahi.com、公聴会開催や世論調査の実施など間接的に信を問う方法を検討するとみられます。総じて新潟県としては、国策と県民感情の狭間で熟慮を重ねている状況であり、知事同意の是非はなお時間を要する情勢です。
地元自治体(柏崎市・刈羽村)の意向
原発立地自治体である新潟県柏崎市と刈羽村では、地域経済への効果や雇用維持の観点から再稼働を求める声が強まっています。地元議会の動きとして、刈羽村議会は2024年3月8日、村内経済団体が提出した「柏崎刈羽原発の早期再稼働を求める請願」を賛成多数(賛成8・反対3)で採択しましたnewsdig.tbs.co.jp。請願審議では「新規制基準をクリアした原発は安全だ」と再稼働容認を訴える意見や、「まず避難対策指針の見直しを待つべきだ」と慎重意見も出ましたが、最終的に早期再稼働を求める声が議会の意思となりましたnewsdig.tbs.co.jpnewsdig.tbs.co.jp。品田宏夫刈羽村長はもともと再稼働容認派であり、請願採択を受け「再稼働プロセスに法的な地元同意のルールはない。規制当局が『安全に発電できる』と判断したなら私はそれを十分尊重したい」と述べていますnewsdig.tbs.co.jp。品田村長は7期にわたり村政を担い、村内では再稼働支持が根強いため、今後も村として再稼働を歓迎する姿勢ですyoutube.com。
柏崎市議会でも同様の動きがありました。2024年3月21日、柏崎市議会本会議は「柏崎刈羽原発の早期再稼働を求める請願」を賛成16・反対5の多数決で採択しましたasahi.com。この請願は柏崎商工会議所など市内6団体連名で提出されたもので、市議会の特別委員会で慎重に審査された末に可決されたものですasahi.com。討論では、賛成議員から「再稼働により東電社員300人の移住など経済波及効果が大きい」「福島事故後、安全性は大幅に高まっている」といった主張が出されましたasahi.com。反対議員は「能登半島地震で避難への不安が高まった中、なぜ今この請願なのか理解に苦しむ」「県の経済効果調査の結果を見てから審査すべきだ」と批判しましたがasahi.com、最終的に市議会として再稼働支持の意思表明がなされました。これを受け、桜井雅浩柏崎市長は「圧倒的多数で可決された。『地元同意』の一番大事なピースが埋まった」と述べ、市議会の意思を尊重して自らも再稼働同意に傾く考えを示しましたasahi.com。桜井市長は従前より「議会の判断を重く見る」と公言しておりasahi.com、議会支持を得たことで市長として正式に再稼働容認に動くとみられます。
このように地元2市村の首長と議会は再稼働支持で足並みが揃った状況です。経済面では、柏崎刈羽原発が長期停止している間、両自治体への固定資産税収入や地域雇用が減少しており、再稼働による東電関連収入の回復や地域振興策への期待が高まっています。刈羽村議会では「原発停止が長引くこと自体が不安」という声も出ておりfnn.jp、安全対策に時間がかかり過ぎることへの苛立ちも聞かれます。もっとも、地元が再稼働を求めても最終的には新潟県知事の同意が必要でありasahi.com、両自治体は県に対しても経済影響の情報提供や安全対策の説明を行い、知事判断を後押ししたい考えです。地元同意に関する手続き上は法定のルールこそありませんが、政慣習上、国・事業者は県知事・市長・村長の合意を得て進めるとしています。その意味で、柏崎市・刈羽村の同意機運は整ったものの、県知事の結論待ちというのが現在の構図ですasahi.com。
国会での議論・発言
柏崎刈羽原発の再稼働を含む原発政策は、国会でも大きな論点となってきました。特に2023年には政府が原発政策の転換を図り、関連法案を国会提出したことで与野党の激しい議論が交わされています。政府提出の「GX脱炭素電源法案」(原発の運転期間延長や次世代炉開発を盛り込んだ法案)は、2023年4月27日に衆議院本会議で可決され、5月31日に参議院でも可決・成立しましたasahi.com。この審議過程で、与党と一部野党(維新・国民)は賛成し、立憲民主党・共産党などは強く反対しましたasahi.comnewsdig.tbs.co.jp。衆院審議では立憲民主党の議員が「60年超運転はリスクであり、政府は正面から答弁していない」と追及しましたが、与党多数で押し切られましたnewsdig.tbs.co.jp。参院本会議でも立憲・共産の反対討論が行われ、「規制委員会ですら全会一致でない運転延長を拙速に決めるのは問題だ」といった指摘がなされましたcdp-japan.jp。最終的に同法成立により政府は原発再活用の法的基盤を整備し、柏崎刈羽を含め老朽炉の扱いも含めた長期的原発利用が可能となりました。
国会質疑では他にも、柏崎刈羽原発固有の問題が取り上げられています。たとえば2023年1月の衆議院経産委員会では、東京電力が電気料金値上げの前提として柏崎刈羽7号機の再稼働時期を見込んだことに対し、政府答弁として「原子力規制委の追加検査中で再稼働時期は見通せない」と説明されましたnews.tv-asahi.co.jp。また別の委員会では、過去に茂木敏充経産相(当時)が「規制委で安全確認された原発は再稼働を進める」と発言したことについて質問主意書が出された例もありsangiin.go.jp、歴代政権の方針の一貫性が問われる場面もあります。野党議員からは「東電の信頼性に問題がある中、国民負担で再稼働を進めてよいのか」「避難計画の実効性が不透明なまま再稼働同意を急ぐべきでない」といった懸念が繰り返し表明されています。これに対し政府側は「エネルギー安定供給と脱炭素のため必要」「安全性は規制委判断に委ね、政府は地元と丁寧に協議する」と答弁し、真っ向からの論争はややかみ合わない傾向も指摘されましたasahi.com。
新潟県選出の国会議員もそれぞれの党派で発言しています。与党側では地元選出の高鳥修一衆議院議員(自民)が「地域経済のためにも安全が確認された原発は動かすべき」と国会や地元で発言している一方、野党側では森裕子参議院議員(立憲、元新潟県知事選候補)が「県民世論は拙速な再稼働に否定的」と訴えるなど温度差があります。また国政政党ではありませんが、2022年の新潟県知事選で花角知事と戦った小柳聡氏(原発反対を掲げた候補)は大差で敗れたものの約46万票を獲得しており、新潟県民の間でも意見が割れている状況が国会にも反映されています。
再稼働に関連する法案・政策の動き
福島事故後、原発政策を巡る法制度は大きく変化しました。直後は民主党政権下で原子炉等規制法に「原則40年、最大60年で廃炉」という運転期間制限が導入されましたが、近年になりこの枠組みが見直されています。岸田政権はエネルギー安定供給と脱炭素を目的に2023年、「GX脱炭素電源法」を成立させましたasahi.com。この改正により、原子炉の停止期間(審査や訴訟で止まっていた期間)を運転期間から除外できるようになり、事実上60年超の運転延長が可能となりましたnewsdig.tbs.co.jp。例えば停止期間が10年あれば運転開始から70年まで稼働し得る計算で、今後は経産大臣が電力需給や脱炭素の観点から延長を認可する仕組みですasahi.com。この法改正は自民・公明だけでなく維新・国民民主も賛成し、立憲・共産などが反対する構図で可決されましたasahi.com。法案審議では「法定の60年制限を撤廃するのは福島事故の教訓を踏みにじる」といった批判もありましたが、最終的に成立していますnewsdig.tbs.co.jp。
政策面では、政府は原発の新増設やリプレースにも舵を切りました。2022年8月のGX実行会議で岸田首相は**「次世代革新炉の開発・建設を検討する」**と表明し、原発新設禁止の従来方針を転換しましたfoejapan.org。経産省は今後既存炉のリプレース(建て替え)を進める制度設計を行う方針で、既に新設炉の建設費を電気料金上乗せで回収できる仕組みの検討も始めていますasahi.com。柏崎刈羽原発に直接関係するものではありませんが、長期的には老朽化した1~5号機の扱い(再稼働か廃炉か)や、将来的な次世代炉への置き換え議論にも影響する可能性があります。
他の政策動向としては、政府が原発立地地域への財政支援を拡充している点が挙げられます。再稼働に同意した自治体には交付金を増額し最大10億円給付するといった措置や、電源立地地域対策交付金の継続・増額など、地域振興策とセットで再稼働を進める戦略が取られていますasahi.com。また、エネルギー基本計画の見直し議論も進行中で、2050年カーボンニュートラルに向け原発比率をどの程度維持・拡大するかが検討されています。政府は2030年度に全原発の最大限活用(稼働率向上)を目標に掲げ、停止中の原発については可能な限り稼働させる方針です。その中で柏崎刈羽6・7号機の再稼働は東日本地域の電力安定供給に直結する重要案件と位置付けられていますasahi.com。
総じて、柏崎刈羽原発の再稼働を巡る政治状況は**「国は再稼働推進、規制委は安全最優先、与党は容認、主要野党は慎重、地元市村は賛成、県は慎重」という構図にあります。それぞれの立場で安全性と民意、エネルギー需要を考慮した発言・政策が交わされており、今後は新潟県知事の判断と国と県の調整が焦点となります。政策的には法整備も進み再稼働へのハードルは下がりつつありますが、政治的には「最後の一押し」を巡る攻防**が続いています。政府・与党は地元説得と安全対策に万全を期し、野党や住民団体は透明性ある意思決定と原発依存脱却を求めており、柏崎刈羽原発の再稼働問題は引き続き日本のエネルギー政策の試金石となっている状況です。
Sources:
- 朝日新聞「退陣間近の首相、柏崎刈羽原発の再稼働に『尽力』」(2024年8月27日)asahi.comasahi.com
- FNNプライムオンライン「政府“原発の再稼働”目指す」(2023年5月17日)fnn.jpfnn.jp
- テレビ朝日NEWS「柏崎刈羽原発の再稼働 西村大臣『見通せる状況ではない』」(2023年1月27日)news.tv-asahi.co.jp
- 経産省・西村康稔大臣会見(2023年12月14日)meti.go.jp
- NST新潟総合テレビ「経産相、電話で新潟県知事などに同意要請」(2024年3月19日)news.nsttv.comnews.nsttv.com
- NST新潟総合テレビ「齋藤経産相 発言・知事応答」(2024年3月19日)news.nsttv.comnews.nsttv.com
- 朝日新聞「東京電力柏崎刈羽原発への『運転禁止』命令、規制委が解除を決定」(2023年12月27日)asahi.comasahi.com
- しんぶん赤旗「柏崎刈羽『運転禁止』解除 規制委 東電『適格性』も確認」(2023年12月28日)jcp.or.jp
- FNNプライムオンライン「柏崎刈羽原発の追加検査“継続”」(2023年5月17日)fnn.jpfnn.jp
- 朝日新聞「原発の運転期間が60年超へ 改正法が成立」(2023年5月31日)asahi.com
- TBS NEWS DIG「原発“60年超”運転延長法案 衆議院を通過 立憲民主党は反対」(2023年4月27日)newsdig.tbs.co.jp
- 朝日新聞「柏崎刈羽再稼働問う県民投票条例案、否決」(2025年4月18日)asahi.com
- BSN新潟放送「刈羽村議会、早期再稼働求める請願を採択」(2024年3月8日)newsdig.tbs.co.jpnewsdig.tbs.co.jp
- 朝日新聞「原発の早期再稼働の請願 柏崎市議会で採択」(2024年3月22日)asahi.comasahi.com