はじめに
北海道電力(ほくでん)は、泊原子力発電所の長期停止や燃料費高騰により経営悪化が続き、かつて自己資本比率が5%台まで低下する危機に陥ったことがありますhepco.co.jp。経営再建のため2014年には日本政策投資銀行(政投銀)からの資本支援(優先株式発行)を受けて債務超過の回避を図りましたhepco.co.jp。その後も経営環境は厳しく、近年ではウクライナ情勢に伴う燃料価格高騰で巨額の赤字を計上しました。しかし2023年度には電気料金値上げの効果などで過去最高の純利益662億円を計上しhokkaido-np.co.jp、経営は一時持ち直しています。一方で、同社は2025~2030年度に総額1.6兆円もの巨額投資計画を打ち出しておりfinance.yahoo.co.jp、その資金調達手段として**増資(新たな株式発行による資金調達)**の可能性が取り沙汰されています。本報告書では、北海道電力の増資の可能性について、公式発表、報道、専門家の見解、SNSや業界関係者の声などあらゆる角度から調査し、増資実施の蓋然性や時期、目的、過去の増資事例、関連する財務情報を整理します。
直近の経営状況と財務課題
経営成績の急変動: 北海道電力は近年業績が乱高下しています。2022年度(2023年3月期)は燃料費高騰などから連結最終損益が▲221億円の赤字に転落しましたhokkaido-np.co.jp。しかし、政府による規制料金値上げの許可(家庭向け平均約23%の値上げ)biz-journal.jphokkaido-np.co.jpや燃料価格下落のタイムラグ効果により、2023年度(2024年3月期)は純利益662億円の黒字と大幅な業績改善を果たしていますhokkaido-np.co.jp。この値上げによる増益寄与は約937億円に達しhokkaido-np.co.jp、同社の経営を大きく好転させました。
財務状態の改善と依然残る課題: 業績回復に伴い自己資本も増強され、2024年3月期末の自己資本比率は14.9%と、前期末の11.7%から3.2ポイント上昇しましたhepco.co.jp。実際、総資産約2.14兆円に対し純資産は3,335億円となり、前年から約753億円純資産が増加していますirbank.net。一方で、有利子負債残高は約1.24兆円にのぼり、自己資本比率14.9%に対して有利子負債比率387%(負債の自己資本比)と依然高水準ですirbank.net。電力大手各社と比べても自己資本比率は低めであり、財務基盤の脆弱さが完全に解消されたわけではありません。また、泊原発は2012年以降停止が続き、安価な原子力による収益貢献が得られない状況が長期化しています。電源構成上、同社は火力発電への依存が高く(例:2013年度時点で火力56%、原子力0%jcr.co.jp)、燃料市況に業績が左右されやすい構造的課題も抱えています。
巨額投資計画の発表: こうした中、北海道電力は将来の事業成長と安定供給・脱炭素化に向けた設備投資計画として、「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を策定し、2025~2030年度に約1兆6,000億円の投資を行う方針を示しましたfinance.yahoo.co.jp。この中には泊原子力発電所の安全対策工事や再稼働準備、電源開発(石狩湾新港発電所2号機の新設予定hepco.co.jp)、再生可能エネルギーの導入拡大、系統(送配電網)増強、さらにはカーボンニュートラル対応(石炭火力へのアンモニア混焼試験等)のプロジェクトが含まれますhepco.co.jp。これらは地域の将来需要(例:半導体工場「ラピダス」の稼働見込みによる大口需要増hepco.co.jphepco.co.jp)に対応するため不可避の投資と位置付けられています。しかし、6年間で1.6兆円という投資規模は同社にとって過去に例のない高水準であり、資金調達方法が大きな課題となっています。
以上のように、足元では黒字転換・自己資本比率の回復が見られるものの、依然として債務依存度が高く、今後数年で巨額の資金需要が見込まれる状況です。このため、財務健全性を維持しつつ投資資金を確保する手段として増資の必要性が議論されています。
会社側の公式見解と発表内容
経営陣の発言: 北海道電力は公式にはまだ具体的な増資計画を発表していませんが、経営陣は資本調達について前向きな姿勢を示しています。2025年4月、齋藤晋社長は日本経済新聞のインタビューで、前述の1.6兆円の投資資金の**過半は借入金などで賄うものの、残りについてエクイティ・ファイナンス(株式発行による資金調達)も「考えている」と明言しましたfinance.yahoo.co.jp。社長は泊原発の安全対策工事などコストのかかる案件を控える中で、借入だけに頼らず自己資本による資金調達も視野に入れていることを認めた形です。また同社は投資家向け説明会においても、「あらゆる手段により資金調達を実行していく必要」があるとして、「資本性のある資金調達も含めて選択肢を検討していく」**との方針を示していますhepco.co.jp。これは従来の社債発行や銀行融資に加え、優先株や普通株発行など自己資本性資金の調達も排除しないという公式見解です。
こうした発言から、会社側は増資(自己資本調達)の可能性を否定せず、むしろ必要に応じて実施する意向が伺えます。ただし現時点で増資の時期や規模、手法(公募増資か第三者割当増資か等)について具体的な言及はありません。2014年に増資報道が出た際、北海道電力は「当社が発表したものではないが、厳しい財務状況を踏まえ資本対策も検討中」とコメントした例がありますhepco.co.jp。今回もあくまで「検討段階」にあるとのスタンスで、正式決定すれば然るべき手続き(取締役会決議・開示)が行われるものと思われます。
報道と市場での増資観測
日本経済新聞の報道: 北海道電力の大規模投資計画と資金調達については、2025年4月18日付の日本経済新聞電子版が詳報しました。同記事によれば、北海道電力は2025~2030年度に計1兆6000億円を投資する計画であり、泊原発(北海道泊村)の再稼働に向けた安全対策工事などを進めるとされていますfinance.yahoo.co.jp。注目すべきは、先述の齋藤社長発言にも触れ、必要資金の過半を借入で賄う一方で**「株式発行による資金調達も考えている」**と伝えた点ですfinance.yahoo.co.jp。この報道は市場に大きく受け止められ、4月18日の北海道電力株は前日比で大幅安となりましたfinance.yahoo.co.jp。投資家は増資による株式価値の希薄化(株数増加による1株当たり利益・純資産の低下)を懸念し、売りが優勢となったものと考えられます。実際、記事公開後の同社株価は急落し、一時年初来安値圏に沈みました(増資観測報道に敏感に反応した形)finance.yahoo.co.jp。
他社動向と波及効果: 増資観測が強まった背景には、他電力会社の増資実施も影響しています。例えば関西電力は2023年11月に約5,000億円規模の公募増資を発表し、株価が急落しましたmedia.finasee.jp。関西電力は電力各社の中では業績や財務基盤が比較的堅調でしたが、それでも将来の成長投資(データセンター事業や不動産事業強化など)のため思い切った資本調達に踏み切っていますmedia.finasee.jp。この事例は市場に「関西電力ですら増資を実施するのだから、他の電力各社も増資が必要になるのでは」との見方を広げました。北海道電力は関西電力ほど財務体力が強いわけではないため、なおさら増資の必要性が高いのではないか、との観測が高まったのです。
地元・業界メディアの報道: 地元紙の北海道新聞も2024年4月の決算会見での齋藤社長コメントを報じています。齋藤社長は「好業績を踏まえ自己資本を確保し、株主やお客さまに還元もしていきたい」と発言しており(2024年3月期決算・記者会見)hokkaido-np.co.jp、財務健全性と株主還元の両立に言及しました。この「自己資本を確保」という表現は、利益を内部留保して資本増強を図ることを指すとともに、必要なら増資で自己資本を充実させる含意とも読めます。また、業界専門誌などでは、電力各社の大幅赤字が相次いだ2022年度決算を受けて「政府支援や増資による資本増強なくしては乗り切れない」との見解も散見されました。実際、日本格付研究所(JCR)は2013年に北海道電力が優先株増資を発表した際、「現状推移では増資効果は短期に剥落、原発再稼働と電気料金再値上げの動向を注視」とコメントしておりjcr.co.jp、根本的な収支改善策(原発稼働・料金改定)が伴わない増資は焼石に水になりかねないと指摘しています。このように、報道や専門機関も北海道電力の資本政策を重要視しており、増資の可能性について一定のリアリティをもって報じています。
金融アナリスト・専門家の見解
資金調達計画に対する分析: 証券アナリストや格付機関も、北海道電力の資金繰りと資本政策に注目しています。投資家向け説明会では、アナリストから「2030年までの6年間で約1.6兆円の投資を行う計画だが、そのうち約8,600億円を外部調達する必要がある見通しで、有利子負債が非常に高水準まで増えることになる。EBITDA有利子負債倍率11倍程度という目標を掲げているが、そのデッドキャパシティ(債務耐容量)を考慮しても成立しうるのか」といった厳しい質問が投げかけられましたhepco.co.jp。これは裏を返せば、「仮に8,600億円もの資金を追加の借入だけで調達するのは困難ではないか、自己資本による調達も必要ではないか」という指摘です。この質問に対し、会社側は先述したとおり**「資本性のある資金調達も含めて検討していく必要がある」**と回答し、エクイティ調達を検討中である旨を述べていますhepco.co.jp。
格付機関の視点: 格付機関も電力会社の財務動向を注視しています。JCR(日本格付研究所)は電力各社の財務体質悪化に対し、「料金改定の遅れや原発再稼働の遅延で収支改善が計画を下回れば、現行格付けの維持が困難になり得る」旨を警告していますbgu.ac.jp。北海道電力の場合、過去に資本増強(優先株発行)を行ったものの、泊原発の長期停止が続いた結果、数年で自己資本比率が再び一桁台に低下し格付引き下げリスクが高まった経緯がありますbiz-journal.jp。そのため専門家の間では「抜本策(原発再稼働や追加の増資)がない限り、財務指標の改善は一時的」との見方も強く、現状の利益水準が維持できない場合には再度の資本増強が避けられないとの声があります。
市場分析レポート: 証券会社のレポート等で直接「増資」を言及したものは限定的ながら、一部の市場分析では北海道電力株の低迷要因として「増資懸念」が挙げられています。例えば、ある株式情報サイトでは「増資懸念で売られ過ぎ」との指摘がありminkabu.jp、増資実施により株主価値が希薄化するリスクを織り込んで株価が低評価になっているとの分析がされています。実際、北海道電力の株価指標を見ると、2024年4月時点で東証プライム市場の低PERランキング1位(最も株価収益率が低い=市場から成長期待が薄いと見なされている)となっておりfinance.yahoo.co.jp、市場は同社の将来収益に慎重な姿勢を示しています。この背景には「将来的に増資が行われれば既存株主の取り分が減る」というリスク要因が意識されている可能性があります。
総じて、アナリストや専門機関は**「巨額投資計画を考えればエクイティによる資金調達は避けられない」と分析する一方、「増資しても原発稼働など根本対策が伴わなければ再び財務悪化しかねない」**との懸念も示している状況です。
SNSや業界関係者の見方
増資の可能性については、SNS上や投資家コミュニティでも活発に議論されています。ただし信頼性には注意が必要ですが、個人投資家の生の声は市場心理を知る一端となります。
増資を織り込む声: 株式掲示板では、「関西電力が増資で売り込まれた直後に北海道電力でも増資懸念が浮上した。機関投資家は事前に読んで売っていたようだ」という趣旨の投稿が見られますfinance.yahoo.co.jp。この投稿者は**「経営陣は増資をやるなら決算発表時に決めて欲しい。増配(配当増額)とセットならまだしも、市場は不透明を嫌う」**と訴えておりfinance.yahoo.co.jp、増資実施自体は織り込みつつ、その発表タイミングや株主への配慮(例えば増資と同時の増配など)について注文を付けています。実際4月下旬の決算発表前には、「もしサプライズで増資発表が来たら、好決算でも株価は全部吹き飛ぶだろう」finance.yahoo.co.jpと警戒する声や、「株価が上がらないのは増資を警戒して機関が事前に売っているせいではないか」との憶測も飛び交いました。こうした投稿からは、市場参加者の多くが増資シナリオをそれなりに意識していることが伺えます。
増資不要との楽観論: 一方で、増資を必要としないとの見方も一部にはあります。ある投資家は「今回の上方修正(業績予想の上方修正)を見る限り、北電の計画は相当保守的だ。泊原発再稼働後も僅かな値下げに留めて巧くやり繰りすれば、このような好決算を維持できる。そうなれば増資など必要なく融資だけでやっていけるだろう」と投稿していますfinance.yahoo.co.jp。さらに「増資が避けられないシグナルとしては、関電・中電以外の ‘落ちこぼれ電力’(※業績不振の電力会社)たちが相次いで増資を始めた時だ。その時は諦めるしかないが、そうでなければ増資なしで行ける」という趣旨の発言もありfinance.yahoo.co.jp、他社の動向次第では北海道電力も増資回避できるとの楽観的な見解を示しています。このように、原発再稼働や電力需要増による収益改善が実現すれば自己資本による増強なしでも乗り切れるとの期待も一部では根強いようです。
業界関係者の声: 北海道の経済界や行政関係者の中には、「北電が増資で財務を安定させることは地域経済にプラス」と評価する向きもあります。増資により財務基盤が強化されれば、将来的な大停電リスクの低減や安定供給力の強化につながるためです。ただし既存株主にとっては希薄化リスクがあるため、北海道財界でも意見は分かれます。ある地元有識者は「仮に政府系資金(政投銀等)が入るのであれば、地域としても安心感はある。一方で公募増資で海外ファンドなどが大株主になると経営の地元密着性が薄れる懸念もある」と指摘しており、資金調達の方法次第で受け止めは異なるようです(※具体的なソースはありませんが、一般論として)。
このようにSNSやコミュニティ上では、「増資は既定路線」と見る声と「増資なしで乗り切れる」と期待する声が交錯しています。ただ全般的には、投資家心理として増資リスクが意識されていることは株価動向からもうかがえます(前述の低PERや株価低迷がその証左)。情報の信頼性には注意を要しますが、社長発言という一次情報が報じられたことで、増資観測がますます現実味を帯びて語られている状況です。
増資の可能性が高いとされる理由
上述の情報を踏まえ、北海道電力が増資を実施する可能性は比較的高いと考えられる根拠を整理します。
- 巨額投資に対する資本不足: 1.6兆円もの設備投資を予定する一方で、自己資本は約3,200億円(2024年3月期末の自己資本irbank.net)に過ぎません。全額を借入で賄えば有利子負債は2兆円超となり、財務レバレッジは極めて高くなります。実際、社内試算でもEBITDA比有利子負債倍率が再稼働前に約11倍に達する想定でありhepco.co.jp、このままでは格付けや借入コストの面で支障が出かねません。健全な財務バランスを保つには、一部を自己資本調達で賄い自己資本比率を引き上げる必要性が高いと判断できます。
- 会社側が増資を前向きに検討している: 前述のとおり、齋藤社長自らが**「株式発行も考えている」と発言しておりfinance.yahoo.co.jp、またIR資料でも「資本性資金の調達を選択肢に含める」と明記していますhepco.co.jp。経営トップが公の場で増資の可能性に言及するのは異例であり、これは社内で具体的な増資プランの検討が進んでいる表れ**と受け止められます。会社側が必要性を認識している以上、機が熟した段階で実行に移す可能性は高いでしょう。
- 他電力の増資実例と政府支援の流れ: 関西電力の大型増資実施や、中部電力・九州電力など他社でも劣後ローン・優先株活用による資本調達の動きがありますmedia.finasee.jp。政府も電力インフラ維持のため政策投資銀行を通じた資本支援に前向きで、実際に北海道電力自身2014年と2018年に政投銀資金を受け入れた実績があります(後述)hepco.co.jphepco.co.jp。国策的にも地域電力会社の財務基盤強化は容認・支援される傾向にあり、増資実施のハードルは低くなっています。特に泊原発の再稼働には地元理解が不可欠であり、増資によって財務を安定させ再稼働準備資金を確保することは、国・道も後押ししやすいと考えられます。
- 増資によるメリット(目的)の明確さ: 増資で調達した資金の使途が比較的はっきりしています。例えば(1)泊原発の安全対策工事費や長期停止中の維持費補填、(2)石狩湾新港発電所2号機など電源開発投資への充当、(3)再生可能エネルギーや次世代エネルギーへの設備投資、(4)損なわれた自己資本の回復による財務安定化と信用力維持hepco.co.jp、といった目的ですfinance.yahoo.co.jphepco.co.jp。これらは増資を正当化しやすい「大義」であり、株主や市場の理解も得やすい項目と言えます。特に2023年度末時点で利益剰余金は約1,681億円しかなくirbank.net、これだけでは将来投資に不足するのは明白です。増資による資金確保は成長投資・安定供給のため不可欠との理屈が立ち、実施への説得材料となります。
- 市場で織り込み済み: 株価動向を見ると、既に増資懸念は相当程度織り込まれている節があります(PERの低迷などfinance.yahoo.co.jp)。仮に増資を発表しても「やはり来たか」と受け止められる可能性が高く、株価下落リスクは限定的との見方もあります。むしろ増資によって財務不安が解消すれば株価が見直される余地もあり、一部の投資家は「増資懸念で売られ過ぎ」と分析していますminkabu.jp。経営陣も「不透明感の払拭」に言及しておりfinance.yahoo.co.jp、増資実施で不安材料を早期に取り除く戦略をとる可能性があります。
以上より、財務戦略上も経営意思上も、北海道電力が増資に踏み切る蓋然性は高いと考えられます。
増資の可能性が低い・先送りできるとする見方
一方で、状況次第では増資を回避または先送りできるとの見解もあります。その主な根拠を整理します。
- 業績改善による内部留保拡大: 電気料金値上げ効果が今後も継続し、燃料費市況も安定すれば、北海道電力は数年間にわたり大幅な黒字を計上できる可能性があります。実際、2024年度(2025年3月期)も増収増益・増配予想となっておりfinance.yahoo.co.jp、利益剰余金の積み増しが期待されます。とりわけ泊原発3号機が再稼働すれば、年間数百億円規模の費用減少・収支改善効果が見込まれます。その利益を投資財源に充てていけば、社内留保資金だけで相当部分の投資を賄える可能性があります。「泊再稼働後もうまくやり繰りすれば増資など必要なく融資だけでやっていける」との指摘もあるようにfinance.yahoo.co.jp、業績好転が続く限り急いで希薄化を伴う増資に踏み切る必要はないとも言えます。実際、2023年度の純利益662億円のうち配当支払い(1株20円予定)を除いた大半は自己資本に積み増せています。今後数年黒字を維持できれば自己資本比率も自然に向上し、増資しなくても財務健全性を高められる余地があります。
- 借入余力と政府支援策の活用: 現在の財務体質でも、北海道電力にはまだ借入余力が残されています。実質的に政府系金融機関である日本政策投資銀行からは低利の劣後ローン等の支援を引き出せる可能性が高く、また民間銀行団も地域独占事業者である北海道電力への融資には積極的です。国も2023年に電力各社向けの資金繰り支援策を打ち出しており(電力・ガス事業促進のための融資保証枠等)、増資以外の資金調達手段がまだ残されている状況です。ある投資家は「増資なんぞ必要なく、融資だけでやっていけるだろう」と述べていますfinance.yahoo.co.jpが、これは極端にせよ、例えば社債発行(北海道電力は個人向け社債やグリーンボンド発行の実績もある)や新たな優先株による第三者割当増資(議決権希薄化の少ない資本調達)など、通常の公募増資以外の手段で資金を確保できる可能性があります。これらを駆使すれば、普通株の希薄化を伴う増資を先送りまたは回避することも不可能ではありません。
- 株主価値希薄化への慎重姿勢: 増資は既存株主にとってデメリットが大きいため、経営陣が極力避けたいと考える可能性があります。北海道電力の大株主には北海道県内の機関投資家や自治体関連団体も含まれており、大規模増資で議決権比率が下がることへの抵抗感があるかもしれません。また、株価が低迷している局面での増資は調達効率(発行株数あたりの資金調達額)が悪くなり、既存株主の不満を招きます。社長は「株主やお客さまに還元もしていきたい」と述べておりhokkaido-np.co.jp、増資実施にあたっては増配や株主優待の拡充など何らかの株主還元策が求められるでしょうfinance.yahoo.co.jp。こうしたハードルの高さから、経営陣が増資決断を先延ばしする可能性も指摘されます。「経営陣は不透明な状況を長引かせずやるなら早く決めるべき」との声もありますがfinance.yahoo.co.jp、逆に言えば経営判断として増資を当面見送り続ける選択肢も残されています。
- 他社の出方: 上述のSNSの声にもあったようにfinance.yahoo.co.jp、仮に他の地域電力(東北電力や北陸電力、中国電力、四国電力など)も次々と公募増資に踏み切るような事態になれば、北海道電力も市場の理解を得やすくなります。しかし現時点では、関西電力以外で公募増資を決定した例はありません(2023年時点で九州電力は劣後ローンを活用、中国電力は親会社の中国電力ネットワークへの公的資金注入検討などに留まる)。同業他社が増資に踏み切らない限り、自社だけ率先して公募増資を行うのは株主の反発を招きやすいため、様子見する可能性があります。業界横並び意識も働き、「他社が増資ラッシュにならない限り、北電も踏みとどまるだろう」という見立ても一定の説得力がありますfinance.yahoo.co.jp。
以上の点から、業績の推移や政策環境次第では増資を回避・先送りできるシナリオも存在すると考えられます。特に泊原発の再稼働時期が見通せ、かつ料金制度が安定的に収益確保できるものであれば、急いで増資せずとも必要資金を借入で繋ぎ、その間に自己資本を内部留保で厚くする戦略もあり得ます。
予想される時期(短期/中期/長期)
増資を行うとすればいつ頃になるかについて、現時点で考えられるシナリオを短期・中期・長期の観点から整理します。
- 短期(今後1年以内): もっとも早いケースでは、2024年度内にも増資決定がなされる可能性があります。具体的には2025年3月期の決算発表前後や、泊原発3号機の再稼働可否が判明するタイミングです。市場では2024年4月の決算発表時に増資発表があるのではとの憶測もありましたfinance.yahoo.co.jp。結果的にこのタイミングでは発表はありませんでしたが、社長が言及した以上、早ければ2025年内にも具体策が示される可能性は残っています。短期決行のメリットは、足元の業績が良好なうちに資金調達を済ませ、財務不安を早期に払拭できる点ですfinance.yahoo.co.jp。また巨額投資の初期フェーズに間に合わせることで、計画を前倒しして進めることもできます。実務的には増資実施には株主総会決議等は不要(取締役会決議事項)ですが、株主理解を得るため6月の定時株主総会前後での説明があるかもしれません。短期シナリオとしては2025年春~夏頃までに第三者割当増資や公募増資を実施し、初年度の大型投資(泊原発対策や新電源建設準備)に充当するといった流れが考えられます。
- 中期(1~3年以内): 増資を即断せず様子を見る場合でも、中期的には2026~2027年頃までに増資を行う可能性が高いでしょう。理由は、1.6兆円投資のピークが後半に訪れるためです。例えば石狩湾新港発電所2号機の建設は2030年度運開予定でありhepco.co.jp、逆算すると2027~2028年頃に多額の建設費用支出が始まります。またラピダスの半導体工場が本格稼働する2027年には、供給力増強のための投資を完了させておく必要がありますhepco.co.jp。これらに間に合わせるためには、遅くとも2026~27年までに資金調達計画を固めておく必要があります。中期シナリオでは、まず泊原発3号機の再稼働メド(審査合格・地元同意)がつくのを待ち、それが判明する2024~25年頃に増資の是非を最終判断する、という流れも想定されます。仮に再稼働が実現しなくとも投資は不可避なため、その場合は遅くとも2026年頃までには増資を決断せざるを得ないでしょう。中期実施の場合、投資家への丁寧な周知を図るため、事前に中期経営計画の中で増資計画を明示する可能性があります(実際、関西電力は中期計画発表に合わせて公募増資を発表しましたmedia.finasee.jp)。北海道電力も経営ビジョン達成の資金計画として、数年以内の増資を織り込んでいくことが考えられます。
- 長期(3年以上先・実施回避): 前述のように、増資を回避できるシナリオもゼロではありません。泊原発全基(3基)が2030年頃までに順次再稼働し、電力需要も堅調に拡大した場合、同社は安定した営業キャッシュフローを確保できます。そのキャッシュで投資資金の相当部分を賄えれば、最後まで増資せずに乗り切る長期シナリオもあり得ます。この場合、自己資本比率は利益の積み上げで徐々に改善し、投資負担も長期借入で分散させることで債務償還を平滑化します。ただし、このシナリオは楽観的であり、現実には何らかの形で資本増強を行う公算が大きいと言えます。仮に2030年代まで増資を先送りするとしても、投資完了後の財務テコ入れ目的で増資を行う可能性は残ります。電力業界では、例えば東京電力が福島事故後の負債処理を経て国有化(資本注入)されたケースがあり、最悪の場合**債務超過寸前になって政府資本注入(事実上の国有化)**という長期シナリオも否定はできませんbiz-journal.jp。もっとも、北海道電力の場合、そこまで事態を悪化させる前に手当て(増資)をする蓋然性が高いでしょう。
以上をまとめると、増資実施のタイミングとしては早ければ短期(1年以内)、遅くとも中期(数年以内)に行われる可能性が高いと考えられます。長期にわたり回避できるのは、原発再稼働や想定以上の利益確保という好条件が揃った場合に限られるでしょう。
増資の目的と用途
北海道電力が増資を行う場合、その**資金使途(目的)**は大きく以下のように整理できます。
- 設備投資資金の確保: 最大の目的は、前述した巨額の設備投資プロジェクトを滞りなく実施するための資金調達です。泊原子力発電所の安全対策や設備更新には多額の投資が必要と見込まれますし、新設する石狩湾新港2号機の建設費用、再生可能エネルギー発電設備(風力・太陽光など)への投資、老朽火力の更新やバックアップ電源の増強、道内送配電ネットワークの強靭化など、資金需要は多岐にわたりますhepco.co.jp。増資によって調達した自己資本資金は、これら将来の収益源となる成長投資に充当されます。実際、2014年の優先株増資時には「調達資金は電力の安定供給に必要な設備投資資金に充当する」ことが明言されましたhepco.co.jp。今回も同様に、「地域の安定電源確保と脱炭素に向けた設備投資のため」という大義名分が掲げられるでしょう。
- 財務体質の強化・信用力維持: 増資のもう一つの重要な目的は、毀損した自己資本の早期回復と財務基盤の安定化です。北海道電力は泊原発停止後の累積赤字で自己資本を大きく減少させ、2014年時点で純資産残高は929億円、自己資本比率5.4%にまで低下しましたhepco.co.jp。このため2014年に政投銀を引受先とする500億円の優先株増資を行い、自己資本を補填していますhepco.co.jp。今回も、将来的に巨額の有利子負債を抱えることを見越し、事前にエクイティで資本を厚くしておくことで財務健全性指標を維持し、信用格付けの維持・資金調達コスト上昇の回避を図る狙いがありますhepco.co.jp。財務強化はそれ自体が目的であり、安定供給義務を負う公益事業としての同社にとって、健全なB/Sを保つことは社会的信用を守る意味でも重要です。
- 脱炭素・エネルギー転換への対応: 北海道電力はカーボンニュートラル実現に向けた取り組みも加速しています。例えば石狩湾新港2号機はLNGを用いる高効率火力発電所であり、長期脱炭素電源オークションで選定されていますhepco.co.jp。また苫東厚真火力ではアンモニア混焼によるCO₂削減の検討を進めていますbiz-journal.jp。さらに電気自動車(EV)普及に向けた充電インフラ事業への出資(ユアスタンド社との提携)も行っていますhepco.co.jp。こうしたGX(グリーントランスフォーメーション)投資には相応の資本が必要であり、増資資金は脱炭素社会への転換を推進する原資にもなります。政府のGXリーグやエネルギー転換政策に沿った投資であることから、増資資金の用途として対外的にも説明しやすいでしょう。
- 電力安定供給とレジリエンス強化: 2018年9月に北海道胆振東部地震でブラックアウト(北海道全域停電)を経験した教訓から、北海道電力は電力供給のレジリエンス強化にも力を入れていますbiz-journal.jpbiz-journal.jp。非常時に備えたバックアップ電源の確保、送電網の冗長化、大容量蓄電池の導入(再エネ調整力としての「系統用蓄電」事業参入)など、安全・安心のインフラ構築も重要な投資領域です。増資による資金は、こうした地域のエネルギー安全保障強化策にも投じられるでしょう。地域住民に対しても、「増資資金で災害に強い電力供給体制を整備する」という意義を強調することで理解を得やすくなります。
- 将来的な株主還元基盤の確立: 増資そのものは株主に希薄化を強いるものですが、財務が安定し成長投資が実れば将来的な利益増大によって増配など株主還元の原資が増える可能性があります。北海道電力は2023年度に無配から1株20円の配当復配を実施しました(ウクライナ情勢前の水準に回復)hepco.co.jp。経営陣も「今後さらなる株主還元を期待できるか」と問われ、「収益性向上を図った上で増配も検討したい」と答えていますhepco.co.jp。増資によって一時的に株主価値は希薄化しますが、その資金で成長を実現し中長期的に配当原資を増やすことができれば、結果的に株主にも利益が返ってくる可能性があります。この点を株主に理解してもらうことも、増資実施の目的と言えるでしょう。
以上のように、北海道電力の増資目的は単なる資金繰り対策に留まらず、将来に向けた設備投資・経営改革の原動力確保と財務健全性の回復・維持という戦略的意味合いがあります。公式発表でも「競争の進展する厳しい環境下で電力安定供給を続けるには、安定的な資金調達を可能とする財務基盤構築が必要」とされhepco.co.jp、また「毀損が進んだ純資産の早期回復により信用力維持に努めることが重要」と説明されていますhepco.co.jphepco.co.jp。まさに増資の目的を端的に表した言葉と言えます。
北海道電力の過去の増資事例(参考)
北海道電力は過去にも財務危機時に増資を行った経験があります。その主要な事例を振り返ります。
- 2014年7月:A種優先株式500億円の第三者割当増資 – 東日本大震災後の原発停止で経営が悪化し、2011~2013年度まで3期連続の経常赤字・純赤字に陥ったためhepco.co.jp、日本政策投資銀行を引受先とする議決権のない優先株(種類株)発行による増資を実施しましたhepco.co.jp。発行株数500株、払込総額500億円で、この資金は主に傷んだ自己資本の補填と設備投資資金に充てられましたhepco.co.jphepco.co.jp。発行時点で北海道電力の自己資本比率はわずか7.6%でしたがirbank.net、この増資により直後には10%台に回復しています。その後政投銀は議決権のない優先株主として北海道電力を財務面で支え続けました。
- 2018年7月:B種優先株式470億円の第三者割当増資 – 2014年発行の優先株(A種)について、2018年以降に株主から償還請求(買取請求)を受ける権利が発生する契約となっていたためhepco.co.jp、それに対応する財源を確保しつつ資本性資金を維持する目的で、新たにB種優先株を発行しましたhepco.co.jp。引受先は再び日本政策投資銀行およびみずほ銀行で、発行総額470億円ですhepco.co.jp。この資金でA種優先株を会社が買い取り消却しつつ、B種優先株として資本勘定に組み入れることで、実質的に政策投資銀行からの資本支援を継続・拡大した形になりました。B種優先株も議決権制限株式であり、普通株主の希薄化は伴っていません(普通株発行数に変化はなし)hepco.co.jp。2018年時点で北海道電力は一旦黒字化していたものの、泊原発の再稼働遅延で財務負担が重く、追加の資本支援が必要と判断された経緯があります。このB種優先株についても当初2023年8月以降に償還請求可能となる条項がありましたが、その後契約を一部変更し償還請求権の行使開始時期を延期していますhepco.co.jp。これは政投銀等が引き続き資本参加を継続する姿勢を示したものです。
- その他の資本取引: 上記以外に公募増資(既存株主にも開放された新株発行)や第三者割当による普通株の発行は、北海道電力では1980年代以降行われていません。同社は1987年に一度だけ新株発行(第三者割当ではなく株主割当増資)を行った記録がありますが、その後長らく追加株式の発行はなく、2014年まで自己資本比率20~30%台を維持していましたirbank.net。しかし前述のように震災後の原発停止で初めて公的色彩の強い優先株増資に踏み切り、その後も劣後ローン等ではなく資本性証券で対応している点が特徴です。普通株の公募増資を避け、既存株主価値の希薄化を最小限に留めようとしてきたのが北海道電力の資本政策と言えます。もっとも、それでも財務が持たなくなれば政策投資銀行からの出資(実質国の資本注入)を仰ぐ体制が出来上がっており、これはある意味「半官半民」的な資本構成とも表現できます。現状でも発行済株式総数に占める優先株(B種470株)は小さいですが、金額ベースでは既存普通株主資本2,~300億円に対し優先株資本470億円が入っている状況であり、一定程度の公的支えの下で経営が成り立っているのが実情です。
これら過去の増資事例から、北海道電力は危機時に躊躇なく資本増強策を実行してきたことがわかります。また、公募増資よりも政府系機関を引受先とした優先株式発行という方法を選択し、議決権の希薄化や市場インパクトを抑える工夫もしてきましたhepco.co.jp。今回もし増資に踏み切る場合、全株を市場に公募する形だけでなく、一部または全部を政策投資銀行等に割り当てる可能性があります。その場合、表向き「公的支援」という形でありつつ実質は増資と同様の効果を得ることになります。したがって、増資の可能性を議論する上では、このような多様な資本増強手段を念頭に置く必要があります。
その他関連する経営・財務情報
増資の検討にあたり参考となる、北海道電力の経営・財務関連指標や動向を補足します。
- 自己資本比率の推移: 同社の自己資本比率は、震災前の2000年代後半には25~30%台でしたがirbank.net、2010年代前半に急低下しました。2014年3月期には7.6%irbank.netまで落ち込み、増資後の2015年3月期に9.8%、以降10%前後で推移しましたirbank.net。直近では2023年3月期11.7%、2024年3月期14.9%と持ち直していますhepco.co.jp。一般的なインフラ企業の目安20~30%には未だ届かず、依然として薄い資本構成と言えます。
- 有利子負債とレバレッジ: 2024年3月期末の有利子負債は約1兆2,400億円irbank.netで、自己資本比率14.9%に対しD/Eレシオ(有利子負債/自己資本)約3.7倍に相当します。これは他の大手電力と比較しても高めの水準です(例:東北電力や北陸電力も2023年度に自己資本比率10%前後まで低下)。仮に増資で自己資本を500億円増強すれば、D/Eレシオは約1兆2,400億円/(3,200億円+500億円)≒3.0倍に低下し、かなり改善します。増資により信用力指標を改善できる効果は数字上明確です。
- 利益剰余金と配当政策: 2023年3月期末時点で利益剰余金は1,051億円まで減少していましたがirbank.net、2024年3月期末には1,681億円へ積み増されましたirbank.net。これは無配から復配(年20円配)に転じつつ内部留保も増やせたことを意味します。配当性向は依然低く(2024年3月期で約6%【41†L15-L18