2026年3月期の連結業績予想
信越化学工業(4063)の2026年3月期(FY2026)業績予想について、同社は2025年4月25日の決算発表時点で業績予想を非開示としましたkabutan.jp。これは半導体事業など外部環境の不透明さを踏まえた慎重な姿勢と見られます。実際、同社は2025年3月期決算で経常利益8,205億円(前期比+4.2%)を計上したものの、「26年3月期の業績見通しは開示しなかった」と伝えられていますkabutan.jp。業績予想の未開示は市場に不確実性を残す要因ですが、その一方で専門家は半導体市況の回復などから来期増収増益を見込む声もあります。
こうした専門家予想によれば、2026年3月期の売上高は約2兆7,189億円、純利益は約5,969億円、EPS(1株当たり利益)は約304.7円程度が見込まれています。
業績予想の非開示により正式な会社計画は不明なものの、半導体シリコンウェハー需要の回復や塩ビ(PVC)事業の堅調さから、アナリストは増収増益を予想していますdiamond.jp。実績ベースでも2025年3月期は売上高+6.1%、純利益+2.7%と増収増益で着地しておりkabutan.jp、成長基調の継続が期待されています。
自社株買いの実施状況
信越化学工業は近年、大規模な自社株買いによる株主還元策を積極的に実施しています。特に2025年4月25日には取締役会で発行済株式数の10.2%(最大2億株)、上限5,000億円に及ぶ自己株式取得を決議しましたkabutan.jp。取得期間は2025年5月21日から2026年4月24日までで、市場買付により実施されますshinetsu.co.jp。下表に今回の自社株買い概要を示します。
決議日 | 取得株式数上限 | 取得金額上限 | 取得期間 | 方法 |
2025年4月25日 | 2億株(発行株の10.2%) | 5,000億円 | 2025/5/21~2026/4/24 | 東証での市場買付 |
この5000億円規模の自社株買いは過去最大の買い枠であり、同社の強固な財務基盤を背景に実施されます。信越化学は元々、株主還元の基本方針として「機動的な自己株式取得」を掲げておりshinetsu.co.jp、近年3年連続で1000億円規模の自社株買いを行ってきましたminkabu.jp。例えば、2024年には発行株式数1.1%(2,200万株)、上限1,000億円の自己株取得を発表・実施し、取得株式は全株消却していますminkabu.jp。同様に2023年7月にも1.5%・1,000億円上限の買い付けを実施し、取得株は翌年に全て消却済みですjp.reuters.com。このように毎年大規模な自社株買いと消却を行うことで株主価値の向上(1株あたり利益の押し上げやROE改善)に努めています。
現在進行中の5,000億円買い付けは特に規模が大きく、発行株数の約1割を削減するインパクトがありますkabutan.jp。これによりEPSの上昇や株式需給の改善が見込まれ、後述する株価へのポジティブな影響も期待されています。
事業内容の概要(成長分野とリスク要因)
主な事業と成長分野
信越化学工業は世界トップクラスの総合化学メーカーであり、特に 「塩化ビニール樹脂(PVC)」と「半導体材料」 の二大事業を収益源としていますdiamond.jp。PVC(塩ビ)事業では世界最大のシェアを持ち、北米を中心にインフラ・住宅向け需要を取り込みながら拡大を続けていますdiamond.jp。同社は米国において約40万トンの新設PVC工場を2024年秋に稼働予定で、これは世界年間需要増加の約30%に相当する規模であり、更なる塩ビ事業の成長を狙っていますshinetsu.co.jp。一方、半導体材料ではシリコンウエハーで世界首位の地位を占め、TSMCなど主要半導体メーカーに供給する最先端製品を展開していますdiamond.jp。半導体市場は中長期的に数量・品質とも拡大が見込まれており、同社も国内で次世代リソグラフィ製品の新工場建設に着手するなど積極投資を行っていますshinetsu.co.jp。
さらに同社は事業ポートフォリオの多角化も進めており、シリコーン(有機ケイ素化合物)事業や、光通信・エレクトロニクス向けの合成石英、電気自動車駆動用のネオジム磁石(希土類マグネット)、半導体製造向けのフォトレジストやフォトマスクブランクス、医薬・食品添加物に用いるセルロース誘導体等、幅広い機能性材料分野も手掛けていますdiamond.jp。これらの新製品群は同社が長年培ったシリコン化学や合成技術を応用して開発された高付加価値分野であり、近年の収益拡大に大きく寄与していますdiamond.jp。例えば、フォトマスク用ブランクス(原板)でも世界トップシェアを有するなどintellectualmarketinsights.com、ニッチ分野での圧倒的競争力が強みです。総じて、塩ビという汎用素材から半導体シリコンというハイテク素材まで、幅広い事業領域で世界トップクラスの競争力と市場シェアを持つことが信越化学の特徴と言えます。
リスク要因
もっとも、こうした強力な事業基盤にもリスク要因は存在します。第一に景気変動や需給サイクルの影響です。同社製品の主要市場は海外比率が高く(連結売上の約78%が海外)kitaishihon.com、世界経済の動向や地域景気の影響を大きく受けます。特に塩ビやシリコンウェハーは市況商品の側面もあり、世界的な需給バランス次第で価格が乱高下し得ますkitaishihon.com。例えば塩ビは中国勢の増産による供給過剰リスクが常に存在し、半導体ウェハーもメモリ業界の設備投資サイクル等で需給が変動します。需要減少や価格競争の激化が起これば、同社業績に大きな悪影響が及ぶ可能性がありますkitaishihon.com。実際、半導体市況が調整局面に入った2024年前後には信越化学の株価も下落基調となりましたlimo.media(後述)。
第二に為替リスクです。海外売上高が大半を占めるため、円安・円高の振れは売上・利益を押し上げたり下押ししたりする要因となりますkitaishihon.com。為替ヘッジも行っていますが、急激な為替変動を完全に相殺することは困難ですkitaishihon.com。
第三に技術革新と競合のリスクです。特に主要顧客であるエレクトロニクス・半導体業界の技術進歩は非常に速く、常に最先端材料の開発を続け対応していく必要がありますkitaishihon.com。もし新技術への対応が遅れたり、代替素材が台頭した場合、シリコンウェハー事業などの競争優位が揺らぎ得ますkitaishihon.com。また、他社との激しい開発競争・知的財産の問題も潜在的なリスクと言えます。
第四に規制や環境要因です。化学メーカーとして各国の環境規制や輸出入規制の強化は事業に直接影響します。例えば塩ビは環境負荷物質として規制強化の議論もあり、排出抑制や代替技術への対応が求められますkitaishihon.com。規制が予想以上に厳格化し大規模な追加投資が必要となれば、収益圧迫要因となり得ますkitaishihon.com。気候変動に伴う自然災害やパンデミックなど不測事態も、生産拠点の被災・サプライチェーン断絶リスクとして挙げられますkitaishihon.com。
以上のように、グローバル市場依存による景気・為替リスク、技術革新への対応力、規制順守コストなどが信越化学の主要なリスク要因です。同社も事業分散や複数拠点化、防災・品質対策を講じてリスク軽減に努めていますがkitaishihon.comkitaishihon.com、経営者も「予想を超える事態が生じた場合、業績に重大な影響を及ぼす可能性がある」と認識していますkitaishihon.com。
業績・株主施策が株価に与える影響と市場評価
株価への影響について、上述した業績動向・自社株買い・事業内容の要素が複合的に作用しています。まず、半導体シリコンを中心とした業績見通しに関しては、2024年頃の半導体市況悪化で株価は調整しましたが、足元では業績底入れからの回復期待が株価を下支えしていますdiamond.jp。会社が通期予想を開示しなかったこと自体は不透明要因となるものの、専門家の多くは半導体需要の底打ちと2025年以降の回復を見込んでおり、「買い」判断に傾いていますminkabu.jp。実際、みんかぶのアナリスト予想では最新の評価コンセンサスは「買い」で、1年後の目標株価は約5,887円とされていますminkabu.jp。これは現在の株価水準(※執筆時点)より上昇余地があるとの見方であり、強力な自社株買いや成長戦略が評価されていることを示します。
特に自社株買いの発表は株価に即座にポジティブな反応をもたらしました。前年の2024年5月に1,000億円規模の自社株買いを発表した際には「想定外のタイミング」であったことも相まって株価が大幅反発していますminkabu.jp。市場では「決算発表後のサプライズな買い付け発表は、株価水準の低さに対する会社側の意識の表れ」と受け止められminkabu.jp、自社株消却によるROE・EPSの改善期待から買い安心感が広がりました。今回の5,000億円という前例のない大型買い付け枠も、発表直後に株式市場で高く評価され、発表翌営業日の株価上昇につながっています(発表当日夜間取引で買い気配が広がったとの報道もありましたminkabu.jp)。このように、積極的な株主還元策は株価押上げ要因となっています。
一方で、中長期的な株価には前述の事業リスク要因も影響します。例えば半導体市況の再悪化やPVC市況の低迷が起これば、いくら自己株買いを実施しても業績不安から株価は下押しされる可能性があります。実際、2023年後半には半導体需要調整を背景に業績見通しの不透明感が強まり、決算が市場予想を下回った際には株価が大きく下落する局面もありましたmedia.paypay-sec.co.jp。このためアナリストレポートでも「巨額の投資負担が利益率の改善を妨げている」「通期見通し非開示や四半期減益予想には慎重な見方も必要」との指摘がみられ、株価上昇に楽観しすぎない姿勢も一部にはありますminkabu.jp。しかし総合的には、信越化学の強固な収益力と株主還元策へのコミットメントが投資家から高く評価されており、株価は長期的に見て堅調な推移が予想されます。
まとめ
信越化学工業は塩ビと半導体シリコンという二本柱を中心に事業を展開し、高収益を上げています。2026年3月期の会社計画こそ非公表ですが、市場では増収増益が期待されており、大型の自社株買いも発表されました。近年の継続的な自己株取得・消却は1株価値を高め、株主への利益配分を拡充するものですminkabu.jp。事業面では成長機会(半導体需要拡大や新製品群)とリスク(市況変動や技術革新圧力)を併せ持ちますが、総じて世界トップクラスの競争力と盤石な財務体質により、安定成長が見込まれます。これらを背景に専門家も強気見通しを示しておりminkabu.jp、同社株価は今後も業績動向や株主還元策とともに推移していくと考えられます。
参考資料・出典:最新の決算短信kabutan.jpkabutan.jp、会社プレスリリースshinetsu.co.jp、有価証券報告書kitaishihon.com、ニュースメディア(ロイターjp.reuters.com、日経・ダイヤモンド等)および株式情報サイト(株探kabutan.jpkabutan.jp、みんかぶminkabu.jpminkabu.jp)より作成しました。各種数値やコメントは上述の出典に基づき引用・要約しています。